噂には聞いていましたが…とても大きい館です。
集合住宅、と言えば良いのでしょうか…。
さんは二日間ですっかり我が家のように慣れたみたいですが、私達はまだ少し戸惑っています。




アニーさんと部屋を決めた後、前に当番を済ませた人達が記入していた育児日記を読んでみました。
食べた朝・夕食の献立やその日何をしたか等が事細かに記されていましたが、どちらにも書いてあったのは





“ひとりにすると泣くので要注意”




とのことでした。




体が小さくなった所為で精神も小さくなっているのでしょうか…。
さんが泣く、と言うのが全く想像つきません。




けれど回ってきたからには役目を果たさなければ…いえ、さんにはいつも力を貸してもらっています。
こういう時にこそ、私達がさんを支えなければ…。









「プレセア、明日の朝食当番お願いしても良い?」
「はい。問題有りません」
「良かった。私今日の夕食を作るね。お風呂係はフォレストさんがしてくれるし、寝かしつけはイオンさんがやってくれるから」


性別が違う以上、さんのお風呂は男性が面倒見ることになっています。
だから女性陣だけのグループは編成されなかったのですが……少々寂しい気もします。
寝かしつけるのも別、と言うことは夜になればさんは男性陣の部屋へ行くことになると言う事ですから。
私達女性組は比較的接する時間が少ないようで損した気分です。









「あにー、あにー」
「フフ、なんですか?」
「なにちゅくりゅの?」
「シチューですよ。さん好きですか?」
「しゅきー
vv


料理をしているアニーさんの周りをついて回るさん。
日記によると朝食当番だったルカさんとクラトスさんはさんと一緒に料理をしたと書いてあった。
料理が好きなのは大きくても小さくても変わらない。



「ぷれせあ、ぷれせあもしちゅーしゅき?」
「はい、好きです」



話しているとこんなにも心温かくなるのは変わらない。
自然と私達を笑顔にしてくれるのは貴方だけです。


















初めてこのメンバーで食事をしたけれど、さんが入ることによってとても和やかな雰囲気になります。
そしてその中で色々と解った事もありました。

フォレストさんはとても面倒見が良くて、さんが零さないようにナプキンを巻いてあげたり熱いシチューを冷ましてあげたりしていました。
イオンさんは一番さんの言う事を理解していると思います。やはり幼子の言葉では解り難い言葉もあるのですがイオンさんはちゃんと読み取っていました。
アニーさんはあまり子供と接する機会は無いと仰っていましたが、彼女は積極的にさんとコミュニケーションを交わしていました。


私は………どうでしょう。

話しかけると言っても、今のさんが喜びそうな会話を私は知りません。
いつもさんの方から私に話しかけてくれますし……。





「ぷれせあ??」

「あ…はい何でしょう?」

つい考え事に意識が行ってしまいました…。さんが心配そうにこちらを見ています。




「あのねっ、ぷれせあにあげりゅの」


差し出されたそれはデザートにとアニーさんが作ったストロベリーパフェ。
それはさん用に作られたもの。
さんは甘い物が大好きな筈…何故私に…?



「ちゅかれたときはあまいものがいちばんってりっどがゆってたよ。だかりゃあげりゅ」

「…さん…」



あ…私考え事の最中ぼーっとしてたから…疲れてるように見えたのでしょうか。
それでさんなりに気を遣って……。





「ありがとうございます。でもこれはさんが食べてください」
「そ、それはぷれせあにあげたの!」

くれる、と言っていてもやはり物欲しそうな顔で見ている。






「…では半分こしましょう」

「……うん!」




良かった。
私でも笑顔にすることが出来た。























お風呂時、私とアニーさんが女性用の浴室へ行って驚いた。
様々な種類のお風呂に加え、とても女性らしい内装。

確か女性の個室と浴室はアガーテ女王が手をかけたと聞いていましたが…想像を超えた出来です。



お湯から花の香りがして、とても癒された気がします。









お風呂から上がるとソファにうつぶせているフォレストさんがいました。
その背中にはさんが立っていて、必死にバランスをとっています。




「フォレストさん、何してるんですか?」

「いや…風呂で俺が最近肩こりがと言ったら、がマッサージをしてくれると言ったんだ」
の体重が丁度良いみたいですよ。僕はがこけないように支える役目です」


人の背中の上は平らな地面と違い歩きづらい。
イオンさんがさんの手をとって支えているお陰で、さんはマッサージに集中している。





「きもち、いーい?」
「ああ。もうちょっと上の方を頼む」
「あーい。イオン、こっちこっち」
「はい了解です」



全く似ていない外見なのに、不思議と親子のよう。

微笑ましい光景に私達は笑みを零した。
















――夜は更けて行った。